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腸を良い状態にすることで体が元気になるテクノロジー

NHK大河ドラマ『べらぼう』の舞台にもなっている、天下泰平と言われた江戸時代。
約260年続いた江戸庶民の生活の中に、現代の「腸活」に通じるヒントが隠されているのはご存知ですか?
「江戸っ子の食事情」と「腸活食」ついて、江戸料理文化研究家の車浮代先生にお話を伺いました。

1日3食と白米の習慣は、江戸時代がはじまり

1657年、江戸を襲った「明暦の大火」により、町の復興に多くの職人が各地から集まりました。肉体労働が主であったため、朝晩の2食だけでは体力がもたず、屋台や飯屋が江戸のあちこちに誕生。外食文化が発展し、人々は昼にも食事を取るようになりました。さらに、照明用の油が普及したことで夜間の活動も可能になり、1日の稼働時間が延びた結果、自然と朝・昼・晩の3食が定着。元禄時代には庶民の間でも1日3食が一般的になっていきました。
また江戸には各地から年貢米が集まり、精米技術の発展によって、やわらかくて美味しい白米が食べられるようになりました。それは江戸っ子たちの大きな誇りのひとつで、雑穀が主食だった農村の人々にとって、白米はまさに憧れのごちそうでした。

江戸っ子の健康の秘訣は、3つの「腸活食」

画像提供:江戸料理文化研究所 ※無断転載を禁じます

成人男性は1日5合もの白米を食べていたと言われていますが、江戸庶民は燃料節約のために1日分のご飯を大量にまとめて炊き、おひつに保存。朝は炊き立てを食べ、昼は家に冷や飯を食べに帰るか、握り飯を持ち歩き、夜は冷や飯に朝の残りの味噌汁をかける「ぶっかけ飯」や、湯通し、湯漬け、茶漬け、雑炊などにして食べていました。実はこの「冷や飯」を食べていたことが、江戸っ子の健康の秘訣でした。
「冷や飯には炊き立てご飯の1.6倍ものレジスタントスターチ(難消化性のでんぷん)が含まれているので、食物繊維が大腸に届き、善玉菌のエサになります。効率よく腸内環境を整え、お通じもよくなり、腸活にいい影響をもたらしていました」(車浮代先生)

画像提供:江戸料理文化研究所 ※無断転載を禁じます

江戸っ子は味噌の効用を知っていて、毎朝健康維持のために味噌汁を飲んでいました。なかでも、毎朝売りにくる叩き納豆(ひきわり納豆)と薬味を入れた、納豆汁が人気でした。
「必須アミノ酸が全部入ってる味噌は腸活によく、“味噌汁は医者殺し” “味噌汁は朝の毒消し”と言われていました。納豆汁は、お椀に叩き納豆大さじ1ぐらい入れておいて、味噌を溶かした出汁をかけ、刻みネギをかけていただきます。納豆を煮込んでしまうと臭みが増したり、ナットウキナーゼという酵素が活性を失うので、納豆を先に入れておくのがおすすめです」(車浮代先生)

画像提供:江戸料理文化研究所 ※無断転載を禁じます

人気の白米にも実は弊害があり、精米することによるビタミンB1の欠乏によって「脚気(かっけ)」が多発。脚気は食欲不振、倦怠感、足のむくみや痺れ、動悸息切れを引き起こし、時には心不全が悪化して死に至ることもある病で、玄米を食べる地方では見られず、江戸の町だけで発症したので「江戸わずらい」とも呼ばれていました。(『べらぼう』の主人公、蔦屋重三郎の死因も「脚気」だったと言われています。)そんな中で救世主となったのが「ぬか漬け」。

「ぬか床には「乳酸菌」と「酪酸菌」、「酵母」という、発酵を促し腸活につながる3つの微生物が息づいています。足りない栄養素を補給する救世主であり、庶民の間でぬか漬けはあっという間に広がり、全国で漬けられるようになりました」(車浮代先生)

車浮代先生がおすすめする江戸っ子の腸活レシピ「米のとぎ汁漬け」

画像提供:江戸料理文化研究所 ※無断転載を禁じます

「ぬか床は手入れが面倒」という方にもおすすめの、5分で簡単に作れる至極のレシピ“米のとぎ汁漬け”。米のとぎ汁に塩を溶かし、カットした野菜を漬け、冷蔵庫に保存するだけ。
「漬けていると乳酸発酵が進み、ぬか漬けに似た味に変化します。ぬか漬けは多くの乳酸菌を含んだぬかを洗い落として食べますが、米のとぎ汁漬けは漬け汁が染み込んだものを食べるので、たっぷりの乳酸菌と食物繊維が大腸に届きます。私も“米のとぎ汁漬け”は、冷蔵庫いっぱいに作っています。手間はかからず、野菜も長持ち、節約になり、生ごみは減り、腸活につながる。いいことづくめで、もっと世の中に広めていきたいです」(車浮代先生)

【米のとぎ汁漬け レシピ】
【材料】(2人前)
<漬け汁>
  • 2洗目か3洗目の濃い米のとぎ汁 200cc
  • 天然塩(岩塩または海塩) 小さじ1(6g)
<お好みの野菜>
  • 生で食べられる野菜 玉ねぎ、キャベツ、にんじん、白菜など(保存容器に入る量をお好みで)
  • 火を通して食べる野菜 ブロッコリーやきのこなど(保存容器に入る量をお好みで)
【作り方】

① 2洗目か3洗目の濃い米のとぎ汁200ccに、天然塩6gの割合の漬け汁を作る。

※食材がヒタヒタになる量をこの割合で作る。

※無洗米などでとぎ汁がない場合は、水200ccに対し、米粉や上新粉小さじ1の割合で溶かせばOK

② <生で食べられる野菜>

各野菜を食べやすい大きさに切り、保存容器に入れる。①で作った漬け汁を野菜が浸る量注ぎ入れて、蓋をして冷蔵庫で保管する。(保存目安は2週間)

※おすすめはキャベツ、ニンジン、玉ねぎ、白菜、ニラ、らっきょう、オクラ、プチトマト、青梗菜、長芋など
※野菜は数種類混ぜてもよい
※土生姜は皮ごと漬け、使用するときは必要な分量すりおろし、また漬け汁に戻せばOK。
※ねぎ、ミョウガ、エシャロット、玉ねぎなども刻んで漬けておけば、そのまま各種料理のトッピングになります

③ <火を通して食べる野菜>

各野菜を食べやすい大きさに切り、漬け汁とともに火にかけ(沸騰させないこと)、冷ましてから冷蔵庫で保管する。(保存目安は2週間)
※おすすめはブロッコリー、きのこなど

まとめ:今すぐ始められる、江戸っ子の腸活食は…

江戸庶民の知恵に学ぶ腸活習慣。「冷や飯」「味噌汁」「ぬか漬け」というシンプルな食、一汁一菜が当時の人々の健康を支えていました。

✅残ったご飯を1時間置いてから冷蔵・冷凍する ※「常温で1時間置くとレジスタントスターチが増えます。一度増えたら、冷蔵・冷凍しても電子レンジ加熱で減ることはありません」(車浮代先生)

✅味噌汁を日常に取り入れる

✅余った野菜を米のとぎ汁に漬ける

これらを意識するだけで、気軽に「腸活」を始められます。江戸っ子の知恵を、ぜひ毎日の暮らしに活かしてみてください。

トップ画像出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/

今回教えてくれたのは…

  • 時代小説家/江戸料理文化研究家 : 車浮代

    江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK「チコちゃんに叱られる!」「美の壺」「知恵泉」「歴史探偵」等のTV出演やラジオ出演多数。著書は『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『気散じ北斎』(実業之日本社)など30冊近く。小説『蔦重の教え』(飛鳥新社/双葉文庫)はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福」、三重テラス「芭蕉月見の宴」等の料理監修も。

    http://kurumaukiyo.com

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  • ライター

    佐藤 江美

    東京でライター、広告プランナーとして活動後、京都御所南でスパイスカレー店を営む。現在はマレーシア・ペナン島に在住。マクロビオティックアドバイザー、野菜ソムリエプロの資格を持ち、趣味は旅先での“おいしいもの”探し。

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