江戸の台所にあった発酵の知恵。それは、現代人の腸内環境にも効く“先人のサプリメント”でした。
江戸料理文化研究家・車浮代先生に、江戸の食養生について伺いました。
食薬としても重宝されていた、江戸時代の発酵調味料
江戸初期には、徳川家康が三河から持ち込んだ三河味噌や塩、梅干しと鰹節と酒を煮詰めて作る「煎り酒」という調味料などが使われ、味わいは素朴で塩辛く、田舎風の料理が主流でした。しかし江戸中後期になると、濃口醤油、みりん、粕酢といった新たな発酵調味料が加わり、「さ(酒・砂糖・みりん)」「し(塩)」「す(酢)」「せ(醤油)」「そ(味噌)」という基本調味料が整えられ、現代に続く和食の基礎が築かれていきます。
「江戸時代の医師・人見必大先生は、自然医学書『本朝食鑑』の中で、酢、醤油、味噌などの発酵調味料の健康効果について詳しく記しています。例えば味噌については『麹の甘みと温かさは胃の中に入って、つかえをなくし、消化をよくし、閉塞をなくす』と述べていて、発酵調味料は単なる味付けにとどまらず、体を整える“食薬”としても重宝されていたことが分かります。また、冷蔵庫のなかった江戸時代、高温多湿な日本で魚を安全に食べるために、寿司屋では食材を酢洗いし、酢や醤油、味噌などの発酵調味料に漬けて保存する工夫がされていました。これらは“毒消し”の知恵として、消化を助け、腸内を整える方法だったのです」(車浮代先生)

“麹菌”がキーワード -腸内バランスを整える、伝統製法の発酵調味料
みりん、酢、醤油、味噌など、江戸時代から受け継がれてきた発酵調味料には、すべて「麹」が使われています。この“麹菌”こそが、健康効果のカギを握っています。
「麹を使って丁寧に仕込み、じっくりと長期熟成させた発酵調味料には、“消化酵素”や“代謝酵素”などが豊富に含まれています。さらに、“乳酸菌”や“酵母”といった善玉菌も多く含まれていて、腸内フローラのバランスを整えます。その結果、便通や免疫力の改善にもつながります。ただし現在は発酵を人工的に短縮したものや、うまみ成分や保存料を使った製品も多いので、選ぶときは表示を確認して、なるべく添加物の入っていない、昔ながらの製法で自然に発酵されたものを選んでください」(車浮代先生)
発酵調味料を使った江戸腸活レシピ
腸活食材×発酵調味料で整腸!「こんにゃく白和え」

江戸の節約おかず番付の精進方・冬の段に掲載。こんにゃくは大和朝廷時代に、医薬品として朝鮮から入ってきたと文献にあります。
腸活ポイント♪ こんにゃくは“お腹の砂おろし”と呼ばれ、冬至、節分などに、毒をさらい、体内を清めることを目的に食べられていました。食物繊維豊富な干し椎茸と合わせて整腸効果もさらにup⤴︎
材料(2人前)
- 糸こんにゃく…1パック
- にんじん…1/2本
- 干し椎茸…2個
- 水…1カップ(200ml)
- 酒…大さじ1
- みりん…大さじ1
- 醤油…大さじ1
- 絹ごし豆腐…40g
- 白味噌…大さじ1
- 練り胡麻…大さじ1
作り方
- 干し椎茸を1カップの水で戻しておき、薄切りにする。糸こんにゃくは洗って適当な長さに切り、にんじんは粗めの千切りにする。
- ①をすべて鍋に入れ、酒・みりん・醤油で煮る。
- 絹ごし豆腐、白味噌、練り胡麻をよく練り合わせ、②の汁気を切って和える。
納豆×発酵調味料のダブル発酵レシピ!「まぐろ納豆」

かつて下魚だったマグロは発酵調味料で漬ける“まぐろの漬け”で一躍人気食材に。江戸っ子の定番だった発酵食品・納豆と組み合わせた「まぐろ納豆」は、江戸流の腸活メニューです。
腸活ポイント♪ まぐろに含まれるオメガ3脂肪酸に納豆菌と発酵調味料の力が加わることで、腸内環境をより効果的に整えてくれます。
材料(2人前)
- まぐろの赤身(刺身用)…100g
- 酒…大さじ1
- みりん…大さじ1
- 醤油…大さじ2
- わさび…少々
- 納豆…1パック
- 卵黄…1個
- ねぎ…少々
- 刻み海苔…少々
作り方
- 酒とみりんを温めてアルコールを飛ばし、冷めたところに醤油を入れて“漬け汁”を作り、卵黄とわさび、まぐろの刺身を漬け、5分以上おく。
- 漬けまぐろは5mm角に切り、納豆と刻んだねぎを加えてよくかき混ぜる。味が薄ければ漬け汁、または醤油を加えて混ぜ、刻みのりをのせる。
大根の消化酵素が胃腸の働きを促進!「八杯豆腐」

節約おかず番付『日々徳用倹約料理角力取組』の大関に位置している、江戸で大人気だった豆腐料理。
※「八杯豆腐」の名の由来は、出汁または水6杯に酒1杯、醤油1杯の、合計8杯で煮汁を作ることから。
腸活ポイント♪ 大根には殺菌・抗菌作用があるとされ、さらに、大根に含まれる消化酵素が消化をサポートし、胃腸の働きを助けてくれます。 江戸時代と同じ製法で作られた「大豆・小麦・食塩のみ」の発酵醤油を使用すると、素材本来の旨味が引き立ちます◎
材料(2人前)
- 絹ごし豆腐…1丁
- 出汁…1.5カップ(水でも可)
- 酒…大さじ3
- 醤油…大さじ3
- 大根おろし…適量
作り方
- 鍋に出汁と酒を中火で煮立て、醤油を加え、お玉で薄くすくった豆腐を入れる。
- 豆腐が浮いてきたら、煮汁ごと器に入れ、大根おろしをのせる。 ※お好みで七味などを振りかける
江戸の叡智、発酵調味料は「腸活」の要だった
冷蔵庫のなかった江戸時代、保存性と健康を両立させるためにさまざまな工夫が凝らされていましたが、なかでも日本人が生み出した発酵調味料は “腸活の原点”でした。
✅ 「麹」で発酵された調味料が腸内環境を整える
✅ なるべく伝統製法・無添加の発酵調味料を選ぶ習慣を
✅ 消化にやさしい和食レシピで“おいしく腸活”
今日の一食が明日からの体をつくります。今こそ伝統的につくられている発酵調味料に注目し、腸内環境を整え、体の内側から元気に整えていきましょう。
トップ画像出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)
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今回教えてくれたのは…
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時代小説家/江戸料理文化研究家 : 車浮代
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK「チコちゃんに叱られる!」「美の壺」「知恵泉」「歴史探偵」等のTV出演やラジオ出演多数。著書は『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『気散じ北斎』(実業之日本社)など30冊近く。小説『蔦重の教え』(飛鳥新社/双葉文庫)はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福」、三重テラス「芭蕉月見の宴」等の料理監修も。
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ライター
佐藤 江美東京でライター、広告プランナーとして活動後、京都御所南でスパイスカレー店を営む。現在はマレーシア・ペナン島に在住。マクロビオティックアドバイザー、野菜ソムリエプロの資格を持ち、趣味は旅先での“おいしいもの”探し。
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