腸が関係する不調といえば、便秘や下痢・腹痛や吐き気や食欲不振などを思い浮かべますが、全く予想外の不調も実は腸が原因である可能性も。
“全ての病は腸から”と古代ギリシャの医師・ヒポクラテスが述べたとおり、腸は脳と密に影響し合っていたり、体内の免疫細胞の7割は腸で作られていたりと、腸は全身の健康に関わる重要な臓器。
ここでは、腰痛や肩こり、生理痛やイライラ、不妊や不育といった女性に多い不調と腸の関係について、消化器内科医の江田 証先生にお話を伺いました。
腸内環境の乱れとは…
腸内環境が乱れて不調が現れる時、腸の中がどういう状態かというと、腸内の細菌そうのバランスが崩れていたり、腸内細菌に多様性がないこと(ディスバイオシス)を指します。
腸内には善玉菌と悪玉菌と日和見菌の3種類があり、それらが2:1:7が理想的なバランス。日和見菌は優勢の菌に味方するので、善玉菌優位であることが大切です。
また、腸内細菌の種類は多くあることが望ましいので、さまざまな食べ物を摂取する必要があります。

腸内環境の乱れが関係する女性に多い不調
腸内環境の悪化が一因の不調の中でも、特に女性に多い悩みと腸との関係性を紹介します。PMSや更年期、加齢で現れそうな不調もありますが、腸も無関係とは言えません。
・腰痛、肩こり
強いストレスや生活習慣の乱れで腸内環境のバランスが乱れると、腸神経系を通じて不調のSOSを発信します。これによって腰周辺の筋肉や皮膚を緊張させて痛みが生じることがあります。腰や腹部に痛みが出ると、姿勢が乱れて肩周辺の筋肉が緊張し、こりが発生することも。
・頻尿、尿漏れ
トイレが近い、夜中にトイレに起きる、急に強い尿意が起こる、尿漏れを起こす症状など、尿がたまる前に膀胱が収縮してしまう状態を過活動膀胱(かかつどうぼうこう)と呼びます。この症状と腸内環境にも関わりが。腸内環境が乱れて短鎖脂肪酸が減ると、膀胱のバリア機能が落ちて炎症が起こりやすくなり、過活動膀胱になると考えられています。
腸内で作られるセロトニンは膀胱周りの平滑筋の収縮を抑えてくれるので、腸内環境が整うことでセロトニンが腸内で十分に作られると、過活動膀胱を抑えてくれる効果が期待できます。
・イライラ
幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンは、その9割が腸で作られます。腸内環境が悪化してセロトニンの分泌が減ると、興奮を促すドーパミンやノルアドレナリンが暴走しだして、ちょっとしたストレスに怒りを抑えられなくなることも。腸の安定はメンタルの安定につながっているのです。
・不眠
腸内環境が悪化すると腸神経系を通じて自律神経が乱れ、交感神経が過剰に働いたり、就寝時間以降も不完全な消化運動が続いたりするせいで不眠になることが。この症状は、遅い時間に脂肪の多い食事を摂ることでも起こる可能性があります。
・乳がん、子宮頸がん
女性ホルモンのエストロゲンが過剰に増えると、がん細胞が増えやすくなり、発がんリスクが高くなります。実は、このエストロゲンの過剰な増加にも腸内細菌と深い関わりが。腸内にはエストロゲンを分解する細菌が存在し、その細菌がホルモンのバランスをコントロールしています。乳がん患者の腸内は、細菌の種類の多様性が失われたディスバイオシスの状態になっていて、エストロゲンを分解する細菌が減少しているということもわかっています。
・不妊、不育
子宮に慢性炎症があると不妊・不育の要因になると考えられています。腸内環境の乱れと子宮の慢性炎症にも関係があると考えられます。酪酸菌を摂取して腸内環境を整え、子宮の炎症を落ち着かせることが対策につながるというデータが出てきています。
生活習慣の見直しで、腸から健康値アップを

紹介した症状の他にも、腸内環境の悪化が花粉症などのアレルギーや手足口病などの感染症、がんやアルツハイマーの一因となる可能性があることが、世界中のエビデンスレベルの高い論文で発表されています。発酵食品や水溶性食物繊維を取り入れた食事・適度な運動・質の良い睡眠を心がけた腸を意識した生活に目覚め、健康長寿を目指しましょう。
(監修:江田 証先生)
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今回教えてくれたのは…
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江田クリニック院長 : 江田証
医学博士。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。栃木県にある江田クリニックの院長を務める一方、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)などテレビやラジオ、雑誌などに多数出演。著書に19万部を超えたベストセラー『新しい腸の教科書』(池田書店)のほか、『すごい酪酸菌』(幻冬舎)、『腸のトリセツ』(Gakken)など多数。
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