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腸を良い状態にすることで体が元気になるテクノロジー

「梅干しはその日の難逃れ」「一日一粒で医者いらず」――昔から健康食として親しまれてきた梅干し。
なんとなく体に良さそう、というイメージをお持ちの方も多いでしょう。
では実際にどんな働きがあるのでしょうか?
20年以上にわたり、和歌山県で「梅干しの効能」を科学的に研究してきた梅干し博士・宇都宮洋才先生に、今回は腸活の視点から梅干しに秘められた力を伺いました。

梅干しによる腸活は、口に入る前から始まっている⁉︎

梅干しに多く含まれる成分のひとつに「クエン酸」があります。
この強い酸味のもとになる成分には殺菌作用があり、例えばお弁当のご飯の中央に梅干しを入れることで、食中毒の原因菌の繁殖を抑える効果があることが、私たちの研究でも確認されています。
昔ながらの「日の丸弁当」にもきちんと理由があるのです。(※1)

※1 引用:© 2010-2025 紀州梅効能研究会

さらに、梅干しを見ただけで唾液が出てくる――そんな経験をしたことがある方も多いでしょう。
この反応は、実は腸活の第一歩で、唾液の分泌を促し、食べ物を飲み込みやすくして消化の準備を整える働きをしているのです。

クエン酸が“胃と腸”の健康をつなぐ

実際に梅干しを食べると、クエン酸の刺激によって胃酸の分泌が活発になります。
これにより胃の消化が助けられ、食べたものの分解・吸収をスムーズに進めるサポートをします。
この“消化のスムーズさ”こそが、腸内環境を整える大切な土台になります。

また、梅干しにはクエン酸以外にも腸にうれしい成分が、少量ですが含まれています。
たとえば、ピロリ菌の抑制作用が報告されている「梅リグナン」(植物ポリフェノールの一種)(※2)、
便の水分量を増やして排出をサポートする「マグネシウム」、悪玉菌の増殖を抑える「カテキン」などです。

※2 引用:© 2010-2025 紀州梅効能研究会

長期的に摂取し続け、これらの成分が複合的に働くことで、腸の健康維持のサポートにつながります。

腸活は「梅干しだけ」でも「腸だけ」でも語れない

私が「梅干しは腸活に役立つ」と考える理由は、梅干しそのものの成分だけにあるわけではありません。
一粒に含まれる栄養素の量はごくわずかです。今日食べたからといって、明日腸の調子が劇的に良くなる――そんな即効性はありません。

ただ、私たちが行なった高齢者を対象とした研究では、「梅干しを食べる習慣のある方」と「そうでない方」の胃の状態は、梅干しを日常的に食べている方のほうが、健康的な傾向にありました。

腸の健康を語るとき、つい「腸だけ」に注目してしまいがちですが、腸は胃の延長線上にあります。
胃での消化がスムーズであってこそ、腸は本来の力を発揮できます。

梅干しは唾液や胃酸の分泌を促すことで消化を助け、結果的に腸に良い影響をもたらします。
また、梅干しと一緒に食べる食事は、お米や味噌汁、魚や野菜など、自然とバランスのとれた和食になることが多い。つまり、梅干しを取り入れることが、無理のない“バランス食”へつながりやすくもなります。

梅干しをきっかけに、食生活全体を見直すことができたら、それもまた腸活の第一歩。
さらには、家族で笑い合いながら楽しく食卓を囲むことで“心の健康”ももたらされたら、素晴らしいと思います。
心と体はつながっていますから。梅干しはそんな日常を支える、ささやかで頼もしい存在だと私は感じています。

私のおすすめは「ホット梅」

梅干しは何より続けることが大切です。
少し硬めの梅干しは、電子レンジで軽く温めると柔らかくなり、食べやすくなります。
温めることで脂肪代謝を助ける作用も期待できるため、ダイエットや代謝ケアにもおすすめです。

無理なく、そしておいしく続けられること。
あらためてその魅力に目を向け、“おいしい健康習慣”として、ぜひ日々の食生活に取り入れてみてください。

今回教えてくれたのは…

  • 大阪河﨑リハビリテーション大学機能性医薬食品探索講座教授 : 宇都宮洋才

    大阪河﨑リハビリテーション大学機能性医薬食品探索講座教授、和歌山サテライトセンター長。医学博士。専門は細胞生物学、機能性食品学。言い伝えの域を出なかった梅干しの効能を国内外の共同研究によって医学的に解き明かす。米国・バンダービルド大学で生活習慣病の発生メカニズムを、帰国後は梅の生産・加工業者、和歌山県みなべ町役場などとチームを作り、梅干しの効能を医学的・科学的に研究。「梅干し博士」として知られ、マスコミや講演でも活躍。和歌山県立医科大学准教授を経て、2022年4月より現職。著書に『梅・梅干し・梅しごと 大学教授が教えるすごい食べ方大全』加勢田千尋共著(文響社)、『やせる! 元気になる! 焼き梅干しパワー』(TJMOOK)など。

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  • ライター

    佐藤 江美

    東京でライター、広告プランナーとして活動後、京都御所南でスパイスカレー店を営む。現在はマレーシア・ペナン島に在住。マクロビオティックアドバイザー、野菜ソムリエプロの資格を持ち、趣味は旅先での“おいしいもの”探し。

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