×

腸を良い状態にすることで体が元気になるテクノロジー

更年期は、女性にとって避けて通れないライフステージのひとつ。ホルモンバランスの変化によって引き起こされる不調は、日常生活にも大きく影響します。

治療法としてはホルモン補充療法(HRT)がよく知られていますが、最近では腸内環境を整えることで不調の緩和が期待できるという新たな視点にも注目が集まっています。

なかでも、キーワードになっているのが「短鎖脂肪酸」。婦人科医の長谷川朋也先生に、お話を伺いました。

――更年期のイライラ、不眠、体重増加…不調はなぜ起こるのでしょう?

「更年期とは、閉経前後の10年間、だいたい40代後半から50代前半を指します。この時期には女性ホルモンのひとつである“エストロゲン”が急激に減少し、心身にさまざまな変化があらわれます。これを“更年期障害”と呼んでいます。

肌や髪の質が変わったり、関節痛が出たり、ホットフラッシュや骨粗しょう症といった身体の変化に加え、気分の落ち込みや不眠、倦怠感などの精神的な不調が出る方も。

エストロゲンが減ることで、体は代わりに皮下脂肪から“エストロン”というホルモンを分泌しようとするので、脂肪を溜め込みやすくなり、結果的に体重増加につながることもあるのです。」

――そのエストロゲン(=女性ホルモン)と腸活に関わりがあるとは意外です!

「医療の現場では、エストロゲンを補うために注射やパッチ(貼付剤)などを使ったホルモン補充療法を行います。ホルモンバランスが整うことで、症状が改善したという方もたくさんいます。

ただ最近は、“腸内環境の改善”がホルモンの働きを支えるという考え方にも注目が集まっています。意外に思われるかもしれませんが、“腸内フローラ”や“膣内フローラ”など、体内の菌のバランスがホルモンの働きに関係しているのではないかと考えられているのです。

エストロゲンは卵巣から分泌され、血液を通じて全身に届けられます。肌や骨、自律神経、そして女性らしい体の働きに関わるのですが、その過程で腸内や膣内にいる善玉菌が、エストロゲンがきちんと働くようにサポートしている可能性があるのです。」

――その腸内環境を整えるカギが、短鎖脂肪酸なのですね。

「はい。腸内の善玉菌に十分な“エサ”が与えられると、それが発酵して“短鎖脂肪酸”という酸になります。これで腸内が弱酸性に保たれると、善玉菌が住みやすい環境となり、さらに善玉菌が元気になり増えていく。結果、腸内環境が整い、エストロゲンの働きもサポートされやすくなる、というサイクルです。

また、腸内環境は炎症の抑制や免疫機能の安定にも関わるので、関節痛や気分の落ち込みといった症状が軽くなる可能性もあるのですよ。

ところでエストロゲンと似た働きをする “エクオール”はご存知でしょうか?」

――はい、“エクオールは更年期の救世主”とよく聞きます!ここにも腸内環境が影響するのでしょうか?

「エクオールは、大豆イソフラボン(特にダイゼイン)が腸内細菌によって変換されて生まれる成分で、エストロゲンに似た働きをする“代役”のような存在感。

日本人女性の約半数が、エクオールを作れる腸内細菌を持っているといわれていますが、腸内環境が整っていないと、その変換がうまくいかないこともあります。

ここでも、短鎖脂肪酸が腸内を整え、菌が働きやすい環境を作ることで、エクオールの生産をサポートしてくれる可能性があるのです。

更年期でエストロゲンが減ってしまっても、エストロンやエクオールのような代わりのものが上手く働いてくれたら、心身の悩みが軽減する可能性はあると思います。

エクオールを生産するには、日頃から大豆製品を摂取している必要があるので、意識して食べるといいでしょう。」

――では最後に、短鎖脂肪酸を増やすために意識することを教えてください。

「基本は、善玉菌とそのエサをセットで摂ることです。

ヨーグルトや納豆、麹、キムチなどの発酵食品と、エサになる食物繊維(野菜、果物、海藻、豆類、雑穀など)をバランスよく食べましょう」

エストロゲンの減少によって起こる更年期の不調。

腸内環境を整えることで、エストロゲンがしっかり働ける状態をサポートしたり、エクオールのような“代わりの働き”をする成分を生み出す土台がつくられるというのは、とても興味深いアプローチでした。

短鎖脂肪酸を味方につけて腸を整えることは、更年期ケアの新たな選択肢として注目していきたいですね!

今回教えてくれたのは…

  • ソフィアレディスクリニック院長 : 長谷川朋也さん

    ソフィアレディスクリニック院長。東京医科大学を卒業後、日本生殖医学会生殖医療専門医としてクリニックや総合病院で経験を積み、2019年にはアメリカ・ハーバード大学でも2年間学んだ経歴を持つ。不妊治療や婦人科疾患についての理解を深められる院長ブログも更新中。https://sophia-lc.jp/blog_cat/婦人科疾患/

    記事一覧へ

キーワード
  • ライター

    井上さや

    元女性誌編集。子育て、ファッションから美容まで
    幅広い企画を担当。現在は経験を活かしてWEBを中心に執筆。
    3歳、6歳2児の子育て中。

    このライターの記事一覧へ

記事をシェア