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腸を良い状態にすることで体が元気になるテクノロジー

インド人の健康の秘訣は、母から子へと受け継がれてきた、暮らしに根ざした知恵にあるそうです。腸を整える食卓の工夫は、今も日々の暮らしに息づいています。
そこで、インド・スパイス料理研究家の香取薫さんに、“スパイス”と“腸活”の深い関係について伺いました。

インド人は365日スパイス料理を食べて、毎日腸活

日本のカレーといえば、肉や野菜を小麦粉入りのルーで煮込む、あのスタイルを思い浮かべる方が多いでしょう。一方、インドのカレーはルーを使わず、家庭ごとに使うスパイスや配合が異なり、同じ料理でもまるで違う味になります。そのため、インドにはカレーという明確な料理は存在しないのだとか。
また、日本人が和洋中さまざまな料理を楽しむのに対し、インド人は365日、ほぼ毎食スパイス料理を食しています。それでも飽きることがないのは、多数のスパイスを組み合わせて、バラエティに富んだ味を楽しめているから。

その食文化は風味の豊かさだけでなく健康面にも良い影響を与えています。インド人が、海外赴任中にスパイスのない食生活を続けると、初めて便が出にくくなり、“これが便秘か”と驚く方もいるのだとか。

インドのお母さんはまるで調合師。スパイス調合で家族の健康を守る

こうしたインド人の腸内環境の良さは、日々の暮らしに根づいた家庭の知恵によるもの。母から子へと自然に受け継がれ、食生活の中で実践されています。
インドのお母さんたちは、毎日家族の体調や体質を考えながらスパイスを調合しています。たとえば、風邪気味のときには生姜やブラックペッパーを多めにしたり、消化に時間のかかる肉類には消化を助けるスパイスを加えるなど、体を冷やすか温めるか、その日の気候も考慮して使い分けているのだそうです。

腸活をサポートする、有能なスパイスを味方につけよう

腸内にガスがたまると、お腹が張るだけでなく、横隔膜を圧迫して呼吸がしづらくなることもあります。そんなときに頼りになるのが、“ガス抜き”に優れたスパイスです。腸内のガスを抑え、消化・吸収をスムーズに整えてくれます。これらのスパイスは生薬としても知られていて、日本の漢方胃腸薬の中にも多数配合されているので、実は日本でも昔から使われています。

◎ヒーング(阿魏・アギ)

<効能、特徴>アーユルヴェーダでは、腸内ガスの抑制や便秘改善に効果があると考えられています。豆や芋などガスの出やすい食材と組み合わせることで、腸での消化をサポートします。加熱で香ばしさと旨味が増すので、ベジタリアン料理で重宝。
<使用方法>油を加熱するときに他のスパイスなどと共に加えて香りを引き出します。ラッサムなどのスープや豆、芋料理はとても良い組み合わせです。

◎クミン(馬芹・ウマゼリ)

<効能、特徴>アーユルヴェーダでは、内臓・消化器系を整え、胃腸の働きを助け、腹痛や食べすぎによる不調を和らげると考えられています。香り高く、食欲を出す基本的なスパイスです。
<使用方法>クミンシードはスタータースパイスとして油に香りを溶け込ませてから他の具材を炒めます。仕上げにクミンパウダーを使用して”W使い”をすることもあります。マトンなどの肉料理と好相性。

◎ターメリック(鬱金・ウコン)

<効能、特徴>アーユルヴェーダでは、抗菌・血中コレステロールの低下・新陳代謝の促進に効果があると考えられています。動物性の脂肪と一緒に摂ることで、腸内フローラを整える効果がより期待できます。
<使用方法>お米1合に小さじ1/4のターメリックと小さじ1のギーorバターorサラダ油と塩少々を加えて炊き、ターメリックライスに。スープや炒め物にプラス(しっかり加熱をしないと苦味が残ります)して彩り鮮やかに。

◎生の生姜

<効能、特徴>アーユルヴェーダでは、消化力を高め、お腹の調子を整え、新陳代謝を促進すると考えられています。胃や腸にもやさしい辛味スパイス。
<使用方法>すりおろした生姜を紅茶や味噌汁、お鍋などに加えると、便通改善効果も。また、食前に岩塩とレモンをかけた生姜スライスを食べることによって消化の力がアップするので、習慣としておすすめです。

◎ブラックペッパー(黒胡椒)

<効能、特徴>アーユルヴェーダでは、唾液の分泌と消化を促し、体を温めて便秘やむくみを改善すると考えられています。また、腸内のガスの排出にも有効と考えられています。
<使用方法>香りづけや辛味づけ、臭み消しなど万能。塩と組み合わせれば素材の味を引き立てます。下味にも仕上げにも◎。

◎アジョワン(ワイルドセロリシード)

<効能、特徴>アーユルヴェーダでは、ガスの抑制、老廃物の排出、抗炎症効果があると考えられています。豆や芋、揚げ物など重たい食材に使用すると消化を助け、胃腸の健康をサポート。
<使用方法>サモサやパコラなど揚げ物の生地に混ぜて使用。スパイシーで奥深い味わいになります。砕いて一晩水出しした「アジョワン水」もおすすめです。

◎フェンネル(茴香・ウイキョウ)

<効能、特徴>アーユルヴェーダでは、整腸、消化促進、口臭予防などに効果があると考えられています。日本の漢方薬などにも多く使用されています。
<使用方法>インドでは軽く炒ったフェンネルを食後に食べ、胃腸を整える習慣があります。

参考出典:
『家庭で作れる東西南北の伝統インド料理』香取薫・河出書房新社
『インドのお母さんに学ぶ健康ごはん 毎日ひとさじのクミンで胃腸を元気に!』香取薫・講談社
『アーユルヴェーダ食事法 』香取薫、佐藤真紀子共著・径書房
『アーユルヴェーダ健美食』香取薫、イナムラ・ヒロエ・シャルマ、彦田治正共著・径書房
『体に効く!アーユルヴェーダ・カフェ 』香取薫、上馬塲 和夫共著・主婦の友社

インドの家庭料理から学ぶ、「腸活」レシピ

『アーユルヴェーダ健美食』径書房 より Photo: 森尊弘

家族の体調が悪いときにお母さんが作るインドの養生食「キチュリー」は、消化によく、やさしい味。北インドでは胃を休めるために毎週土曜に食べる習慣があるそう。
腸活スパイスの「ヒーング」「クミン」「ターメリック」「ジンジャー」を使用し、米と豆を一緒に粥に煮たあとスパイスオイルをかける簡単な豆粥です。

材料(4人前)
  • 米(日本米)…1カップ
  • ムーング豆(緑豆)皮なしひきわりタイプ(※)…1/4カップ ※豆はムーング(緑豆)が一番消化に良いが、手に入らなかったらレンティル(レンズ豆)の皮むきタイプ(オレンジ色)を使う
  • 水…5カップ
  • ターメリック…小さじ1/3
  • ギー(インドのバターオイル) or 植物油…小さじ1
  • 塩…小さじ1
  • (A)スパイスオイル(タルカ)

    【(A)スパイスオイル(タルカ)の材料】
  • 植物油…小さじ2
  • クミンシード…小さじ1/2
  • ヒーング…小さじ1/6(手に入らない場合は省略可)
  • ガーリックとジンジャーのみじん切り…各5g(半かけ)
作り方
  1. 米を研ぎ、豆はサッと1回洗って鍋に入れ、分量の水で30分浸水させる
  2. ガーリックとジンジャーは細かくみじん切りにしておく
  3. ①にターメリックとギーを入れて火にかける
  4. 沸騰したら弱火にして焦がさないように好みの硬さに炊き、好みで水を足して調整する
  5. 塩を混ぜる
  6. (A)を粥の鍋に油ごと入れて完成

【(A)スパイスオイル(タルカ)の作り方】

  1. 小さな鍋やフライパンなどに植物油を中火で熱してクミンシードを数粒いれ、シューっと泡が出たら残りのクミンシードを入れてサッと混ぜる
  2. すぐにヒーングを入れ油に溶かす
  3. クミンシードが色づいて香りが出たら焦げる前にみじん切りにしたガーリックとジンジャーを入れる。ガーリックに色がつき火の通った香りがしてきたら火を止める

    『アーユルヴェーダ健美食』径書房 より Photo: 森尊弘

    バターミルクとは、バターを作るときに分離した水分のこと。インドではおなじみの飲み物で、アーユルヴェーダでは消化を促進し、食欲を増進する効果があると考えられています。
    ※日本ではプレーンヨーグルトを希釈して同成分のものを作り、スパイスを加えます。

    材料(1人前)
    • プレーンヨーグルト…20ml
    • 水…120ml
    • (A)バターミルクマサラ…小さじ1/5

      【(A)バターミルクマサラの材料】
    • クミンシード…小さじ3
    • ピンク岩塩…小さじ1.5
    • ブラックペッパー…小さじ1
    作り方

     【(A)バターミルクマサラを作る】

    1. クミンシードをこんがり色づくまで乾煎りし、乾いたまな板の上で瓶の底などで潰してパウダーにする
    2. ピンク岩塩とブラックペッパーを混ぜる
    3. 小瓶などに入れて常温の涼しい場所に保管する

    【バターミルクの作り方】

    ヨーグルトを水でなめらかに希釈して(A)を混ぜる

    スパイスの力が、健康を支える

    腸内環境を整え、消化を助け、体の不調をやさしくケアする——そんな力が、スパイスには秘められています。インドの家庭で受け継がれてきたスパイス使いは、毎日を心地よく過ごすための暮らしの知恵。食欲がない日、胃腸が疲れている日、便秘気味な日。そんなときこそ、インドのお母さんたちのように、毎日の食事で整える知恵を取り入れてみませんか?
    まずは、クミンやブラックペッパーやターメリックなど、基本的で手に入りやすいスパイスから使い始めると、香りや風味を楽しみながら健康にも役立ちます。スパイスの力を味方に、今日の一日を心地よく過ごしていきましょう。

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    今回教えてくれたのは…

    • インドスパイス料理研究家・有限会社食スタイルスタジオ代表取締役・料理教室キッチンスタジオペイズリー主宰 : 香取薫

      1985年、ボランティアで訪れたインドでスパイス料理に魅せられ、以来さまざまな地方を歩き食文化とレシピのリサーチを続けている。料理教室は1992年創業、多くのカレー店主、料理インストラクターを輩出する。ポリシーは日本の気候や日本人の味覚に合う健康的なスパイス使い。
      主な著書に『はじめてのインド家庭料理』講談社、『家庭で作れる東西南北の伝統インド料理』河出書房新社、『アーユルヴェーダ食事法』佐藤真紀子共著・径書房、『アーユルヴェーダ健美食』イナムラ・ヒロエ・シャルマ共著・径書房など。スパイスやカレー関係の商品開発、関連企業での社員研修も多く担当。一般社団法人 日本香辛料研究会会員
      料理教室 キッチンスタジオ ペイズリー
      Instagram:@kaorukatori
      X:@KaoruKatori

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    • ライター

      佐藤 江美

      東京でライター、広告プランナーとして活動後、京都御所南でスパイスカレー店を営む。現在はマレーシア・ペナン島に在住。マクロビオティックアドバイザー、野菜ソムリエプロの資格を持ち、趣味は旅先での“おいしいもの”探し。

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