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腸を良い状態にすることで体が元気になるテクノロジー

インドには、5000年もの歴史を持つ予防医学「アーユルヴェーダ」があります。これは「より健康に生きるための知恵」であり、今も家庭で受け継がれています。インド・スパイス料理研究家の香取薫さんに、“消化力”と“腸活”に関するアーユルヴェーダの教えについて伺いました。

心と体のバランスを整える「アーユルヴェーダ」

アーユルヴェーダは世界三大医学の一つとされる伝統医学で、「未病(病気になる前)」の段階から、食事・睡眠・運動・呼吸・心の持ち方を整えて心身の健康を保つことを目的としています。オイルマッサージ、ヨガ、呼吸法、スパイスの活用などもその一環で、特に「食」は体だけでなく心や人格にも影響するとされ、インドの家庭では季節や体調に合わせたスパイスケアが日常的に行われています。

また、アーユルヴェーダでは、3つの体のエネルギー“トリドーシャ”と3つの心の性質“トリグナ”のバランスがとても重要です。消化できなかったものが“未消化物”(アーマ)となり、体内に蓄積し、不調を招くとされています。

腸活につながる「消化力(アグニ)」を高めるための心得

アーユルヴェーダでは、“消化するように食べること”が健康の基本とされており、どれほど良い食材でも、消化できなければアーマ(未消化物や不要な物質)になってしまうと考えられています。以下はアーユルヴェーダでポイントとされている、消化を意識した食事の方法です。

  • 牛乳と塩・魚・フルーツの組み合わせ(未消化を招く)
  • 生野菜だけで食べる(未消化を招くので、オイルやスパイスが消化を助ける必要あり)
  • フルーツと重い食べ物(お肉など)を同じタイミングで食べる(消化速度が異なるためよくない)
  • 冷たい飲食物を避け、胃腸を冷やさない
  • 重い食事は昼(10~14時)に。夜遅くの食事は控える(就寝の3時間前には終える)
  • 食間を4〜5時間空け、腹八分目を意識
  • 怒ったまま食べない。心を穏やかにして食事をいただく
  • 五感を使って食事を楽しむ
  • 食前20分以内に、ごく少量の岩塩とレモン汁をかけた薄い生姜スライスを一切れ食べる(消化促進に効果的)

“何を食べるか”だけでなく、“どう食べるか”がアーユルヴェーダではとても大切です。便秘、ガス、体臭、口臭などで腸の調子をチェックしながら、日々の食習慣を見直して、腸の働きを整えていきましょう。

参考出典

『アーユルヴェーダ食事法 』香取薫、佐藤真紀子共著・径書房
『アーユルヴェーダ健美食』香取薫、イナムラ・ヒロエ・シャルマ、彦田治正共著・径書房
『体に効く!アーユルヴェーダ・カフェ 』香取薫、上馬塲 和夫共著・主婦の友社

腸を整える万能油「ギー」の力

アーユルヴェーダでは、無塩バターから水分・タンパク質・不純物などを取り除いた純粋な乳脂肪「ギー」が、料理に広く使われています。食用はもちろん、マッサージや火傷のケア、ヘアケアにも使われ、古典書には1000以上の用途が記されています。
ギーには中鎖脂肪酸(エネルギー変換が速い)、酪酸、ビタミンA・D・Eなどが含まれます。アーユルヴェーダでは、消化吸収を助け、腸内環境の改善にも効果的と考えられており、胃腸が疲れているときは、そのまま少量口に含んだり、夜はホットミルクに入れるのもおすすめです◎

自家製ギーで、内側からめぐりをサポート!

材料(でき上がり約420g〜430g
  • 無塩バター…450g
作り方
  1. 鍋に無塩バターを入れ、火にかけます
  2. はじめに中火でバターを溶かします
  3. 火をできるだけ弱めます(家庭用コンロでは弱火でも火が強すぎるため、餅網などを鍋の下に置き、鍋底との間に空間を作ると安心です)
  4. できる限りの弱火で45から60分加熱します
    (途中、ドーム状の泡が立ち、油とその他の成分が徐々に分離します。さらに加熱すると泡が微細になり、液体が透明になってきたら仕上がりのサインです)
  5. 微細な泡をヘラでそっとどけて、バターが完全に透き通った状態になり、鍋の底に沈殿した茶色い不純物がみえたら火からおろします
  6. 不織布タイプのキッチンペーパーで漉し、耐熱のガラス瓶に保存します
  7. 保存は冷蔵庫ではなく常温の涼しい場所で(夏は液体状、冬は固形になります)
  • 寝る前のホットミルクに
    ⇒ ホットミルクに小さじ1を加えて。消化も良く、体を温めて安眠効果も期待できます。
  • トーストにバターの代わりとして
    ⇒バターよりも塗りやすく、ヘルシー。味わいも芳醇。
  • 炒め物用の油やバターの代わりとして
    ⇒ギーは高温調理でも栄養が損なわれにくく、炒め物にも最適です。また、料理の仕上げにひとさじ加えると、風味が深まります。
  • ご飯やピラフの炊きあがりに
    ⇒ご飯やピラフなどの炊きあがりにひとさじのギーを加えて混ぜると、コクが加わり風味が格段にアップ。
  • スープやみそ汁に
    ⇒スープやみそ汁の仕上げにギーをプラス。まろやかで奥行きのある味わいに。

※アーユルヴェーダでは「万能油」と言われているギーですが、油脂であるためカロリーはやや高め。体に良いからといって摂りすぎは禁物です。“毎日少しずつ、ほどよく”を心がけて、上手に取り入れていきましょう。

ギーは食だけでなく、マッサージオイルとしても活用できます。就寝前にギーを足の裏に塗ると、熱がやわらいで体がクールダウン。肌なじみがよくベタつかないので、夏の暑い夜におすすめです。寝苦しい夜のリラックス習慣に、ぜひ取り入れてみてください◎

※ギーを塗った足のくるぶしから下を足の甲と足裏を包むようにバナナリーフでぐるりと巻くと(剥がれないようにゆるめの靴下などを履いて固定する)、より熱を逃しやすくなります。

アーユルヴェーダの知恵で、腸めぐり習慣

アーユルヴェーダでは、「消化するように食べること」が健康の基本と考えられています。日々の「食べ方」や「食事との向き合い方」を少し見直しながら、万能油・ギーをうまく取り入れ、消化力を高める“腸めぐり”習慣で腸内環境を整えていきましょう。

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今回教えてくれたのは…

  • インドスパイス料理研究家・有限会社食スタイルスタジオ代表取締役・料理教室キッチンスタジオペイズリー主宰 : 香取薫

    1985年、ボランティアで訪れたインドでスパイス料理に魅せられ、以来さまざまな地方を歩き食文化とレシピのリサーチを続けている。料理教室は1992年創業、多くのカレー店主、料理インストラクターを輩出する。ポリシーは日本の気候や日本人の味覚に合う健康的なスパイス使い。
    主な著書に『はじめてのインド家庭料理』講談社、『家庭で作れる東西南北の伝統インド料理』河出書房新社、『アーユルヴェーダ食事法』佐藤真紀子共著・径書房、『アーユルヴェーダ健美食』イナムラ・ヒロエ・シャルマ共著・径書房など。スパイスやカレー関係の商品開発、関連企業での社員研修も多く担当。一般社団法人 日本香辛料研究会会員
    料理教室 キッチンスタジオ ペイズリー
    Instagram:@kaorukatori
    X:@KaoruKatori

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  • ライター

    佐藤 江美

    東京でライター、広告プランナーとして活動後、京都御所南でスパイスカレー店を営む。現在はマレーシア・ペナン島に在住。マクロビオティックアドバイザー、野菜ソムリエプロの資格を持ち、趣味は旅先での“おいしいもの”探し。

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