健康のカギを握る“腸”は、今や世界中から注目される臓器。その腸内環境を整える「腸活」において、近年、注目を集めているのが“不溶性食物繊維”の一種、「レジスタントスターチ(難消化性でん粉)」と「短鎖脂肪酸」。
聞き慣れないこの栄養素や生成物がすごいらしい、ということで、その働きについて、大妻女子大学教授で栄養学者の青江誠一郎先生に伺いました。
レジスタントスターチとは?
発酵性食物繊維として唯一の“不溶性”
一般的に、腸内の善玉菌のエサとなるのは「水溶性食物繊維」。しかし、レジスタントスターチは“不溶性”でありながら発酵性を持つ、例外的存在です。水に溶けないので腸内細菌の働きにより発酵しやすく、また発酵が遅いため、腸の奥深くまで届き、腸の奥にいる善玉菌の餌となるのが特徴です。
腸の奥で効率的に“短鎖脂肪酸”を生み出す!
腸の奥に多く棲む善玉菌は、酸素を嫌う性質を持っています。発酵がゆっくりなレジスタントスターチは、この酸素の少ない奥で善玉菌に分解されやすく、重要な有機酸「短鎖脂肪酸(SCFAs)」を増やしてくれます。
つまり、腸の奥まで届いて発酵するという特性が、今注目される理由なのです。
こちらも注目キーワード、“短鎖脂肪酸”って何?
健康を支える“腸内発”の有機酸
短鎖脂肪酸は、善玉菌が発酵性食物繊維をエサとして分解する過程で作られる有機酸。
以下のような働きが報告されています:
- 腸のエネルギー源になる
- 基礎代謝や免疫力の向上
- 脂肪の蓄積抑制
- 悪玉菌の増殖抑制
不足すると、肥満や糖尿病リスクが上がるともいわれています。
3種類の短鎖脂肪酸とその働き

とくに酪酸は、自己免疫疾患やアレルギーの“過剰な免疫応答”を抑える働きがあり、今もっとも注目されている成分です。
「菌のバトンリレー」が起きている!
酪酸は、酪酸産生菌が“酢酸”をエサとして作ります。そして、その酢酸を生み出すのはビフィズス菌などの善玉菌。
つまり、「ビフィズス菌 → 酢酸 → 酪酸産生菌 → 酪酸」と、菌がリレーのように連携して短鎖脂肪酸を作り出しているのです。

ビフィズス菌も酪酸産生菌も酸素を嫌いますが、レジスタントスターチは酸素の少ない“腸の奥”まで届き、こうした連携をスムーズに行うために、欠かせない存在となっています。
レジスタントスターチは“冷めたデンプン”で狙おう!
レジスタントスターチは5タイプ

※RSとはレジスタントスターチの略。日常で摂りやすいのは「RS2」と「RS3」。冷やしたご飯やじゃがいもは、手軽な摂取源です。
レジスタントスターチはどんな食材に多く含まれる?
- 冷ましたご飯やじゃがいも(加熱→冷却でRS3に変化)
- 豆類やいも類(自然にレジスタントスターチを多く含む)
- 高アミロース米やコーンスターチ(一部はサプリとしても販売)

©️NHK「あしたが変わるトリセツショー」育菌カードより
https://www.nhk.jp/p/torisetsu-show/ts/J6MX7VP885/blog/bl/pnR8azdZNB/bp/pMD6pPea0y/
ちなみに、ご飯を一度冷凍→解凍してもレジスタントスターチの量はキープされます。冷凍保存は、実は“腸活向き”の保存方法なんです!
摂りすぎには要注意。上手に腸活に取り入れて

腸、そして体全体の健康を維持する上で重要な役割を果たす短鎖脂肪酸を生成する上で欠かせない物質がレジスタントスターチですが、一度にたくさんの量を摂れるものではありません。レジスタントスターチの量を意識しすぎると食べ過ぎになってしまうので、こればかりを狙って摂ることも要注意です。「今日は冷えたご飯にしてみようかな」といった、ちょっとした意識が腸活につながります。足りないと感じたときは、サプリなどで上手に補うのも選択肢のひとつです。
今回教えてくれたのは…
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大妻女子大学家政学部教授/栄養学者(食物繊維) : 青江誠一郎
日本食物繊維学会理事長。食物繊維やメタボ予防に関する研究の第一人者で、NHK『あしたが変わるトリセツショー』での監修も話題に。「育菌カード」考案者としても知られる。
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